生成AIを営業で使う企業は増えた。総務省「令和8年版情報通信白書」によると、何らかの業務で生成AIを利用している国内企業は86.4%、営業・販売での活用は約6割に達する(総務省「令和8年版情報通信白書」2026年)。ただし用途は、議事録やメール文の下書きなど「人の作業を助ける」段階にとどまる例が多い。
次の波がAIエージェントだ。指示を待つAIではなく、目的を渡すと手順を自分で組み、複数の作業を続けて実行する。リスト作成から初回アプローチ、商談後のフォローまで、点で終わっていた支援が線でつながる。
本記事は、中小企業がAIエージェントを営業のどこに、どう組み込むかを、公的・信頼できる調査の数値とともに整理する。
この記事の要点
- AIエージェントは「目的を渡すと手順を自分で組み、連続作業を実行する」点が従来の生成AIと違う。
- 向くのはリスト作成・初回接触・追客など、判断より手数が成果を左右する定型工程。
- 導入は全体ではなく1工程から。人が承認する前提で範囲を広げる。
- 成果を出す企業ほどエージェント導入が進む(PwC調査で77%対26%)。
AIエージェントとは|生成AIとの違い
AIエージェントは、生成AIを中核に据えつつ、目的の達成に向けて手順を自分で決め、外部のツールやデータを使いながら一連の作業を実行するAIを指す。従来の生成AIが「1回の指示で1つの文章を返す」のに対し、エージェントは「目的を渡すと、必要な工程を続けてこなす」。この連続性が最大の違いだ。
| 観点 | 生成AI(従来) | AIエージェント |
|---|---|---|
| 指示の仕方 | 1回ごとに指示する | 目的を渡す |
| 作業範囲 | 単発の生成 | 複数工程を連続実行 |
| ツール連携 | 基本は単体で使う | 外部ツール・データを横断 |
| 人の関与 | 都度操作する | 要所で承認・修正する |
| 向く仕事 | 文章の下書き | 一連の業務フロー |
なぜ今、営業でAIエージェントなのか
理由は2つある。1つは人手不足だ。営業人材の採用は年々難しく、少人数で成果を出す必要が高まっている。手作業のリスト集めや初回メールは、時間あたりの成果が低い。ここをエージェントに任せ、人は商談に集中する。
もう1つは実用域の拡大だ。単発の文章生成から、ツールをまたいだ連続作業へと使える範囲が広がり、営業の一連の流れを支援できるようになった。
成果との相関も見えている。PwC「生成AIに関する実態調査2025春」では、生成AIで期待を大きく上回る効果を得た企業の77%がAIエージェントを導入済み・導入推進中だった。期待未満の企業では26%にとどまる。エージェント活用は、生成AIを成果に変えられている企業ほど進んでいる。
営業でAIエージェントに任せられる業務
すべてを任せる必要はない。判断より手数が成果を左右する工程ほど、エージェントが効く。人が担う判断と、エージェントに任せる作業を切り分けて考えたい。
| 業務 | エージェントに任せる範囲 | 人が担う判断 |
|---|---|---|
| リスト作成 | 条件に合う企業の抽出・優先度付け | 狙う顧客像の決定 |
| 初回アプローチ | フォーム送信・文面の個別最適化 | 送る相手の最終確認 |
| 事前リサーチ | 企業・担当者の情報収集と要約 | 仮説と提案の方向付け |
| 商談後フォロー | 議事録から次アクション抽出・日程調整 | 提案内容・条件の判断 |
| 追客 | 反応に応じた再接触の実行 | 停止・エスカレーションの線引き |
具体例で考えると分かりやすい。たとえば新規開拓では、「この業種・この規模の企業リストを作り、各社の事業内容を調べ、相手に合わせたフォーム文面を用意する」までをエージェントが続けて進める。担当者は、送る前に相手と文面を確認し、送信を承認するだけでよい。1件ずつ手で調べて書いていた作業が、確認と判断に絞られる。
新規接点を増やす仕組みは、そのまま商談数につながる。FORTISの支援では、営業プロセスの標準化とツール定着により商談数が2.4倍、対応可能な案件数が1.8倍に伸びた例がある(FORTIS支援実績、企業により差あり)。空いた時間を既存顧客の深耕に回せば、取りこぼしの削減にもつながる。
中小企業がAIエージェントを始める5ステップ
現状を数値化する
新規開拓を工程ごとに分け、1週間だけアプローチ数・返信率・商談化率を記録する。どこに時間がかかり成果が低いかを可視化する。
任せる1工程を選ぶ
最も手数がかかり、判断が少ない工程を1つだけ選ぶ。多くはリスト作成かフォーム送信になる。
人とAIの役割を線引きする
定型はエージェント、相手の最終確認と提案判断は人、と先に決める。送信や外部連絡の前に人が承認する関所を置く。
小さく試し効果を測る
1工程だけで2〜4週間運用し、返信率・商談化率の変化で判断する。感覚ではなく数字で続行を決める。
再現できたら横展開する
効果が出た工程から隣接工程へ広げ、連続した運用に乗せる。最初から全体を任せない。
活用の注意点
自律的に動く分、任せきりは危うい。次の4点を押さえたい。
- 承認の関所を外さない。送信や外部への連絡は、人が最終確認する。自律実行の行き過ぎを防ぐ。
- 情報の扱いを決める。顧客情報を入力する際は、使うサービスの学習・保管の仕様を確認し、社内ルールを定める。
- 法令の範囲で運用する。フォーム送信やメール配信を自動化する場合は、特定電子メール法・個人情報保護法の範囲で運用し、表示義務やオプトアウト対応を事前に整える。
- 過度な自動化を避ける。全工程を一度に任せない。1工程ずつ効果を確かめて広げる。
※本記事は一般的な情報であり、法的助言ではありません。個別の運用については専門家に確認ください。
まとめ
AIエージェントは、指示待ちのAIから、目的を渡せば連続作業をこなすAIへの移行だ。営業では、リスト作成・初回接触・追客など、手数が成果を左右する工程に効く。
中小企業ほど少人数で回す必要が高く、定型をエージェントに任せて人が商談に集中する価値は大きい。始め方は全体ではなく1工程から。人が承認する前提で、効果を数字で確かめながら範囲を広げたい。営業へのAI活用全体の進め方は、AIを営業に活用する方法|中小企業向け完全ガイドで体系的に整理している。

