新規開拓の出発点は「誰に当たるか」を決めることにある。だが営業リストの作成は地味に時間を食い、担当者ごとに精度もばらつく。企業サイトを一社ずつ開き、業種や規模を転記し、重複を消す——この作業に半日を溶かした経験を持つ営業担当は少なくない。
ここで生成AIが効いてくる。情報収集、整形、絞り込みといった「人がやると遅い工程」を肩代わりできるからだ。総務省「令和7年版情報通信白書」(2025)によれば、業務で生成AIを使用中の企業は日本で55.2%(2024年度)に達した。リスト作成はその使いどころの一つになりつつある。
この記事の要点
- AIが担うのは「情報収集・整形・絞り込み」の3工程。最終判断は人が残す。
- 精度は入力した条件で決まる。曖昧な指示では使えないリストになる。
- 導入は小さく始めて検証する5ステップが現実的。
- リストには個人情報保護法・特定電子メール法が関わる。取得元の確認が前提。
営業リスト作成で起きる3つのつまずき
まず、手作業のリスト作成が抱える問題を整理しておく。原因がわかれば、AIに任せる範囲も決めやすい。
一つ目は時間だ。新規開拓のリストを数百件そろえるには、検索・閲覧・転記を延々と繰り返す。この時間は商談そのものには一円も生まない。二つ目は精度のばらつき。担当者Aは上場企業を好み、担当者Bは地場の中堅を狙う——基準が人に貼りついていると、リストの質が担当者次第で揺れる。三つ目は鮮度。半年前に作ったリストには、移転した会社も、担当部署が消えた会社も混ざる。古いリストへの架電は、断られる前提の作業になりやすい。
これらは「属人化」と「非効率」が重なった状態といえる。AIはこのうち、ルール化できる部分を安定して速く回すのが得意だ。
AIが営業リスト作成で担う3つの役割
AIに「リストを作って」と丸投げしてもうまくいかない。役割を3つに分けて考えると、どこを任せ、どこを人が持つかが見える。
| 役割 | AIがやること | 人が持つ判断 |
|---|---|---|
| 情報収集 | 公開情報から業種・規模・所在地などを集めて一覧化 | 集める条件を言語化する |
| 整形・名寄せ | 表記ゆれの統一、重複の統合、欠損項目の指摘 | 統合の最終確認 |
| 絞り込み・優先度付け | 条件に合う企業の抽出、当てるべき順のたたき台作成 | 当てる/外すの決定 |
ポイントは、AIの出力をそのまま使わないことにある。AIは「もっともらしい一覧」を返すが、その会社が本当に見込み客かどうかの判断までは背負えない。収集と整形で人の手間を削り、空いた時間を「当てる相手を見極める」ことに回す。これが現実的な分担だ。生成AIを使った営業全体の考え方は、AI営業の総合ガイドでも整理している。
AIで営業リストを作る5ステップ
いきなり全社展開しようとすると、精度の検証をすっ飛ばして「使えないリスト」が量産される。小さく試し、確かめてから広げる順番を示す。
ターゲット条件を言葉にする
「関東・従業員50〜300人・製造業・自社ECを持つ」のように、業種や規模を具体語で固める。ここが曖昧だと、以降すべてがぶれる。
少量で試作する
まず20〜30件だけAIに作らせる。いきなり500件を作ると、間違いの方向も500件分広がる。小さく出して癖を見る。
出力を人が検証する
架空の会社名が混じっていないか、条件から外れた企業がないかを目視で確かめる。AIは事実と推測を区別せず並べることがある。
プロンプトを調整して量産する
試作でずれた点を指示に反映し、件数を増やす。「上場企業は除く」「公式サイトのある企業に限る」など、外す条件も書き加える。
CRM・SFAに取り込み運用する
完成リストは手元のExcelに留めず、営業管理ツールへ入れる。対応履歴と紐づけば、次回のリスト作成の精度も上がる。
この5ステップは一度で終わりではない。架電やメールの結果をリストに戻すと、「反応が取れる条件」が見えてくる。条件が磨かれるほど、AIの作るリストも当たるようになる。
データで見るAI活用の現在地
「AIで営業リスト」はまだ早い、と感じる担当者もいるだろう。だが企業の生成AI利用はすでに半数を超えている。下図は総務省の調査による、日本企業の生成AI活用状況だ。
情報収集や資料作成の補助がすでに47.3%まで広がっている。営業リストの作成は、この「補助」の延長線上にある作業だ。特別な投資をしなくても、手元の生成AIツールから始められる余地は大きい。
運用で外せない注意点
精度は「指示の具体性」で決まる
AIの出力品質は、与えた条件の精度に比例する。「製造業のリスト」では広すぎて使えない。「東海地方・従業員100〜500人・金属加工・2020年以降に設備投資の公表あり」まで絞ると、返ってくる一覧の確度が上がる。外したい条件を明示するのも効く。
個人情報・メール送信のルールを守る
営業リストは個人情報保護法の対象になりうる。氏名やメールアドレスを含む場合、取得元と利用目的を確認しておく。広告・宣伝のメールを送るなら、特定電子メール法の同意要件(オプトイン)も関わる。AIが集めた情報だから免責される、ということはない。出どころの説明できないデータは使わない方が安全だ。
リストは作って終わりにしない
精度の高いリストは、当てて・記録して・また絞る循環で育つ。実際、営業プロセスを整えた企業では、FORTIS JAPANの支援先で商談数が2.4倍、対応可能案件数が1.8倍に伸びた例もある。リスト単体ではなく、商談を回す仕組みの一部として扱うと効果が出やすい。
まとめ
AIによる営業リスト作成は、収集と整形の手間を削り、見極めに時間を回すための手段だ。丸投げではなく、条件を言葉にして、小さく試し、人が検証する。この順番を守れば、少人数でも質の落ちないリストを回し続けられる。まずは20件、手元のAIで試すところから始めてみてほしい。
※本記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個人情報の取り扱いや電子メール送信の具体的な適否は、所管法令や専門家の確認をお願いします。

