「サービス紹介の資料が古いまま」「事例集を作りたいが手が回らない」。営業資料の更新は後回しにされやすく、いざ商談の直前になって慌てて手を入れる会社は多い。少人数の営業組織ほど、資料づくりに割ける時間は限られる。
生成AIは、この資料づくりの下ごしらえを肩代わりできる。構成案の作成、文章のたたき台、既存文書の要約や言い換えまで、たたき台づくりの速度が変わる。ゼロから白紙に向かう時間が、手直しの時間に置き換わるイメージだ。ただし丸投げでは質が落ちる。数値の取り違えや、もっともらしい作り話がそのまま資料に載るリスクがあるからだ。本記事では、営業資料をAIで作る手順と、質を保つための線引きを、公的・調査データとともに整理する。
この記事の要点
- 営業が最も時間をかける業務は「資料作成」で30.5%(スマートスライド調査)。ここをAIで削れる余地が大きい。
- AIが得意なのは構成案・たたき台・要約。数値や固有名詞の確認は人が担う分業が前提。
- 作成は「素材集め→構成→生成→事実確認→整形」の5ステップに分けると質が安定する。
- 誇張表現や未確認の実績数値をAIに書かせない。チェック工程を必ず挟む。
資料づくりが営業時間を圧迫している
営業の時間は、商談そのものよりも準備に流れがちだ。株式会社スマートスライドが営業・営業企画400人に行った「営業現場における業務実態調査2021」では、最も時間がかかる業務の1位が「資料作成」で30.5%。2位の「移動」19.3%を10ポイント以上引き離した。資料作成に業務時間の半分以上を費やす人も半数を超えた。
一方で、企業の生成AI活用は広がっている。総務省「令和7年版情報通信白書」によると、日本企業の生成AI活用率は55.2%。資料づくりのように時間を食う定型作業は、AIに任せやすい領域の一つだ。
AIで作れる資料・作りにくい資料
すべての資料がAI向きではない。テキスト中心で型が決まっているものほど、たたき台づくりが速い。図解の作り込みや、自社固有の数値・実績が中心の資料は、人の手が主役になる。
| 資料の種類 | AIの向き | 人が担う部分 |
|---|---|---|
| サービス紹介 | ◎ 構成・説明文のたたき台 | 価格・仕様の正確性 |
| 会社案内 | ◎ 文章の言い換え・整理 | 沿革・実績の確認 |
| 導入事例集 | ○ 取材メモの要約・構成 | 顧客名・数値の裏取り |
| 比較・料金表 | △ 骨子のみ | 数値は全て人が入力 |
| 図解・インフォグラフィック | △ 構成案の相談 | 作図・デザイン |
要は、文章の「たたき台」はAI、数値と固有名詞は人、という分担だ。この線引きを崩すと、あとで直す手間のほうが大きくなる。
AIで営業資料を作る5ステップ
素材を集める
既存資料、価格表、サービス仕様、顧客の声をひとまとめにする。AIに渡す前に、正しい情報を手元にそろえておく。素材が薄いと、AIは一般論で埋めてしまう。
構成をAIと決める
「誰向けの、何ページの、どんな資料か」を伝え、目次案を複数出させる。ここで方向性を固めると、後工程の書き直しが減る。
たたき台を生成する
集めた素材を貼り付け、章ごとに本文を書かせる。一度に全部ではなく、セクション単位で出させると精度が上がる。トーンや文字数も指定する。
事実を確認する(最重要)
数値、価格、他社比較、実績はすべて原典と突き合わせる。AIは事実を作文することがある。ここを省くと、そのまま顧客に誤情報を渡すことになる。
整形して仕上げる
スライドや文書に流し込み、図表とデザインを整える。テンプレートを用意しておけば、次回からは2〜4のサイクルだけで済む。
初回はテンプレートづくりに時間がかかる。だが2本目以降は、同じ型を使い回せる。属人化していた資料づくりが、誰でも回せる作業に変わっていく。この標準化の考え方はAIを営業に活用する方法(中小企業向け完全ガイド)でも触れている。
そのまま使えるプロンプトの型
指示があいまいだと、AIの出力もぼやける。「誰に・何を・どんな形で」を明示するのがコツだ。サービス紹介資料の構成をつくるなら、次のように渡す。
プロンプト例
あなたはBtoB営業の資料作成担当です。以下の情報をもとに、
中小企業の総務・経理担当者向けサービス紹介資料の目次案を3パターン作ってください。
・全8ページ想定 ・専門用語は避ける ・各章に載せる要素も箇条書きで
【サービス情報】(ここに自社の素材を貼り付け)
役割・読み手・分量・制約・素材をひとまとまりで渡すと、たたき台の精度が上がる。出てきた案から良い部分を選び、素材を足して具体化していく。一発で完成を狙わず、対話で削り込むほうが結局は速い。
質を落とさないための注意点
速く作れる分、確認を飛ばすと事故につながる。特に次の3点は外せない。
- 数値と固有名詞は必ず裏取り:AIが出した数字をそのまま載せない。原典の調査名・発行元まで確認する。
- 誇張・断定を避ける:「業界No.1」「必ず成果が出る」といった表現は、景品表示法上の問題になり得る。根拠のない優位性は書かない。
- 自社の実績は正確な値だけ:盛った数字は信頼を損なう。確認できる範囲の実数だけを使う。
資料の質が上がると、商談の中身も変わる。準備に追われず、顧客の課題に向き合う時間が増えるからだ。FORTIS JAPANの支援では、営業プロセスの整備を通じて商談数が2.4倍になった例がある。資料づくりの効率化は、その入口になり得る。
まとめ
営業資料はAIで速く作れるが、丸投げはできない。たたき台と要約はAI、数値と事実確認は人、という分担が前提になる。まずはよく使う1種類の資料をテンプレート化し、5ステップを一度回してみる。そこで得た型が、次からの作成時間をまとめて縮める。
時間を奪われていた資料づくりを仕組みに変えれば、営業は本来やるべき対話に集中できる。小さく試し、うまくいった型だけを残していけばよい。

